福島武司法律事務所 業務日誌
弁護士福島武司の業務日誌です(不定期更新)
即時抗告申立書
オレオレ詐欺被害の訴状却下の件、以下のような理由を付して即時抗告を行っています。
忌憚のないご意見、ご批判をいただき、さらに充実した抗告理由補充書を提出したいと思っていますので、よろしくお願いします。

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抗告の理由

1 原命令の要旨
 原命令は、要旨、「原告は、被告の住所及び氏名を特定しなかった」として、本件訴状を却下した。しかし、以下に述べるとおり、これは、明らかに法の解釈適用を誤った違法な命令であるから、速やかに取り消されるべきである。

2 被告の特定について
 原命令は、訴状における被告の「住所不詳・氏名カタカナ」という表示が、当事者の特定を欠いていると判断する。しかし、訴状全体の趣旨を見れば、被告は、「訴状記載請求原因に表示された被害金振込先となった預金口座の債権者である○○」という形で、明確に特定されている。
 このような人物は、社会通念上、1人しかいないことが明白である。また、その人物が、口座開設時において、身分証明書を銀行に提示し、住民票上の住所および氏名を特定して口座開設を申請したこと、銀行がこれを受けて、同人の住所・氏名を把握していることも、明白である。この世に一つしかない銀行預金口座について、この世に1人しかいない債権者であり、少なくともその氏名のカタカナは表示されているのであるから、社会通念上、十分に他人と識別されており、訴訟を誰に対して提起したかという結論は一義的に明白であるから、当事者が特定されているというべきである。
 したがって、氏名カタカナ・住所不明のままでも、本件訴状は有効であり、これを却下した原命令は違法である。
 なお、後記するとおり、抗告人は、取りうる全ての手段を尽くして被告の氏名(漢字)を調査したが、所轄警察署も当該銀行支店も口座名義人の回答を拒否したのであるから、本件においては、当事者(被告)の特定について、このように柔軟に解すべき合理的理由が十分にある。

3 被告の住所の特定について
 原命令は、被告の住所の特定を要求しているが、この問題は、本来、訴状の有効性とは異なる次元の問題である。
 そもそも、民事訴訟法は、公示送達制度を設けている。そうであれば、被告の住所が不明であっても、訴訟を有効に係属させ、判決を行うことを、当然の前提として認めている。
 したがって、提訴時の被告の住所の確定は,当事者の特定の問題ではなく、被告の住居所を不明として公示送達を行う要件があるといえるか、あるいは、裁判所が送達のために被告の住居所をどのような場合に職権で調査するか、という送達手続上の問題というべきである。
 この点、送達が職権で行われ(民事訴訟法98条)、また、裁判所が一般的に適正な訴訟進行についての責任を負っていることからすれば、被告の正しい住所を確定するため、職権により被告の住所を調査すべき場合が存在する。
 本件においては、抗告人は、弁護士法23条の2に基づく照会を利用しても、被告の住所を調査できないのであり、抗告人に可能なその余の手段は存在しない。他方、裁判所の調査嘱託がなされれば、当該銀行は速やかに被告の住所を回答するのが通例であり、手続上、何ら特段の支障はない。
 さらに言えば、本件は、いわゆる「オレオレ詐欺」被害事案として、所轄警察署も既に被害届を受理し、所要の捜査に着手している(そうであるからこそ、当該銀行口座は凍結されている。)。したがって、抗告人の被害を司法的に救済する必要性が極めて高い一方、被告のプライバシーが特段に保護されるべき理由はない。
 また、仮に、このまま本訴訟が有効に係属しなければ、徒に時間だけが経過し、預金債権が時効により消滅する(結果としてオレオレ詐欺の不法利益を銀行が得る)ことになる。この帰結は、所轄警察署の依頼による銀行口座凍結の意味を完全に失わせることになり、社会的に見て著しく不相当であることは言を待たない。裁判所が、このような事態の生じることを当然とするような法解釈を取るならば、犯罪被害者救済の世論が高まるばかりの現在、必ずや、厳しい社会的非難にさらされることとなろう。
 以上述べたところからすれば、本件においては、被告の住所は、裁判所の職権により、特定されるべきである。
 なお、裁判所が職権で被告の住所を調査する場合、上記のとおり、当該銀行に対する調査嘱託が簡明かつ唯一の現実的手段である。したがって、本件においては、釈明処分としての調査嘱託(民事訴訟法186条)を行うのが相当であり、かつ、それで足りるから、何ら問題はない。実際にも、銀行は、弁護士法23条の2に基づく照会は拒否しても、裁判所からの調査嘱託には応じている。

4 抗告人が被告の住所・氏名の調査を尽くした経緯
 【具体的経過省略】
 このように、抗告人は、白らの取りうる手段を全て尽くしており、原命令の命じる内容を実現することが物理的に不可能である事実は、もはや明白である。したがって、原命令には、一片の正当性もないというべきである。

5 保全命令における前例
 当事者の住所・氏名特定の観点からは、本件と同様の問題点を有する仮差押申立てについて、「債務者住所不詳、氏名カタカナ」のまま保全命令を発令した前例は、多数存在する。
 いわゆるヤミ金融対策として、ヤミ金融業者が利用している預金口座を、不当利得返還請求権に基づいて仮差押する先例が全国で積み重ねられているが、その先駆者である蔭山文夫弁護士は、豊富な経験に基づいて、以下のとおり報告している。
【以下、全国ヤミ金融対策会議著「新ヤミ金融対策マニュアル」より引用、省略】
 なお、本件では、警察から当該支店に連絡がなされていることにより、当該振込先預金口座が既に凍結されているため、無駄な費用を発生させないよう、仮差押手続を取ってはいないが、法律的な問題点(当事者の特定)は、上記の仮差押と本訴とで全く同一である。したがって、これまでに、「債務者住所不詳・氏名カタカナ」の仮差押命令が、多くの裁判所で発令されていることに照らせば、原命令は明らかに失当である。
 このような「債務者住所不明、氏名カタカナ」の仮差押え申立ての認容決定例のうち、抗告人代理人が入手したものは、以下のとおりである。
・神戸簡易裁判所平成14年12月24日決定
・松山地方裁判所西条支部平成15年6月9日決定
・横浜地方裁判所相模原支部平成15年8月22日決定
・東京簡易裁判所平成15年10月30日決定
・東京簡易裁判所平成15年10月30日決定
・東京簡易裁判所平成15年10月30日決定
・神戸簡易裁判所平成15年2月28日決定
・川口簡易裁判所平成16年1月21日決定
・尼崎簡易裁判所平成15年2月10日決定
・宮崎簡易裁判所平成15年2月13日決定
・都築簡易裁判所平成15年3月14日決定
・宮崎簡易裁判所平成15年4月14日決定
・神戸地方裁判所洲本支部平成14年7月10日決定
・神戸地方裁判所洲本支部平成14年7月10日決定
 以上のように、全国各地において、犯罪被害者救済のために司法的救済の努力が積み重ねられてきている。にもかかわらず、原命令のような法解釈に立てば、これらの成果を一瞬にして全て無に帰するものにほかならず、到底容認できない。
 原命令は、明らかに法の解釈・適用を誤っている。

6 前橋地裁の判例
 前橋地方裁判所平成15年10月31日決定は、「住所不詳、当事者名カタカナ」を理由に債務者の特定がないとした簡裁の却下決定を取り消している(消費者法ニュース59号120頁)。
 判旨は、「債務者の表記が住所不詳、カタカナ表記となっていることを理由に債務者の特定がないとして申立を却下」した原審を取り消し、「表記された債務者が特定銀行、特定支店、特定口座の口座名義人として開設したことが記載されているから、『債務者が他人と識別可能な程度に明らかになっていると認められる』と判断」している。すなわち、本件と全く同様の問題点について、当事者の特定は十分と断じているのである。
 原命令は、この判例に明らかに反しており、失当である。

7 東京地裁での前例
 抗告人代理人が調査したところ、本件と全く同様の訴状において、訴訟を有効に係属させた事例として、東京地裁民事第6部の先例があった。経過は、以下のとおりである。
 平成16年1月27日
  「被告住所不明・氏名カタカナ」で訴状提出、併せて調査嘱託申立。
 同年2月2日
  東京地裁民事第6部書記官より調査を職権で行う旨電話連絡。
  送付嘱託を実施(嘱託事項は原告申し出のとおり)。
 同月9日
  当該銀行支店より口座名義人の住所・氏名が回答される。
 同月13日
  訴状訂正申立書提出(回答結果に基づく被告の住所・氏名の補正)
 このように、特定の銀行預金口座の債権者である被告について、原告の把握する情報が口座番号とカタカナの氏名のみである場合、「被告住所不明・氏名カタカナ」のまま訴状を受理した上、速やかに調査嘱託を行った例が、東京地裁で現実に存在している。同地裁が、訴状について何の各め立てもせず、提出後わずか数日でこのような扱いを行ったということは、東京地裁においては、同様の取扱いが一般的に行われていることを十分推測させるし、逆に、原命令の異様さを浮き彫りにするものである。

8 宮崎地方裁判所の取扱い
【第1審協議会の協議結果について議論、省略】

9 東京高裁の判例
 東京高等裁判所において、「相手方の氏名カタカナ」のままで執行抗告審を係属させ、抗告申立を認容した例がある。
・東京高等裁判所第21民事部平成15年3月31日決定
・東京高等裁判所第20民事部平成15年5月27日決定
 これらの事件では、いずれも、
 「債務者氏名カタカナ」のままで預金債権の仮差押決定が発令され、
 「被告氏名カタカナ」のままで本案訴訟が係属し、請求認容の判決がなされ、
 さらに「債務者氏名カタカナ」のままで預金債権の本差押が申し立てられたところ、
 執行裁判所が「預金債権が債務者の責任財産に属することの証明がない」ことを理由にこれを却下したため、
 執行抗告が申し立てられた
という経緯をたどっている。そして、いずれのケースでも、東京高裁が執行抗告を容れて、原決定を取り消している。したがって、その前提として、当事者の氏名がカタカナのままで有効に訴訟が係属しうることを、東京高裁が認めているのである。
 よって、原命令は、これらの東京高裁の判例の趣旨に、明らかに反するというべきである。

10 結語
 以上述べたところから明らかなとおり、原命令は、民事訴訟法の解釈適用を誤ったものであり、健全な社会通念に照らしても明らかに失当である。さらに、同種訴状を有効として扱い、組織犯罪被害者の司法的救済に意を尽くしている他の裁判所の判例・先例と明らかに相反しており、異様な命令というほかない。
 よって、原命令は直ちに取り消されるべきである。
 万が一、このまま原命令が維持されるようであれば、本件と同種のオレオレ詐欺被害が全国で頻発する社会情勢の下、「裁判所がオレオレ詐欺被害者を見捨てる判断を固めた」として、全国的に報道されることになろうし、当然ながら、極めて強い社会的非難が集中することになろう。抗告人は、抗告審に対し、司法全体の威信をかけた慎重かつ賢明なる判断を強く求めるものである。
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